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なぐりがき

なぐりがきです。過去の舞台と旅の感想を取りまとめ中。

男の子版『アニー』のテンションで観に行くと死ぬ ― 20211103 『オリバー!』

2021年11月3日 12:30開演

『オリバー』

東急シアターオーブ

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※撮影okタイムにて

 '19ガブローシュ&'20リトルビクターの大矢臣くん・小林佑玖くんの共演が観たいがために取ったチケット。

 この作品、日本上演は1990年以来だというので驚き。そのときまだ生まれていない私。そりゃこれまで観劇のご縁もないわけで。レミゼのクリエイティブに関わりのある作品だということは前々から知っていたのでいつか観たいとは思っていた。

 19世紀ヴィクトリア朝イングランド。救貧院でわずかな食事しか与えられず育った孤児オリバー・ツイストが、売り飛ばされた先の葬儀屋から逃げ出しさまよっていたところ、ドジャーと出会い意気投合。オリバーはドジャーに誘われるままフェイギンが束ねる子どものスリ集団へ連れられる。オリバーも彼らからスリの手法を学び集団の仲間とともに街へ出ていくと、他の子どもたちの盗みを見ていたオリバーが、老紳士に疑われ捕まってしまう。幸いオリバーは無実であることがわかり、老紳士ブラウンロー氏はオリバーを連れて帰り面倒を見るようになる。一方、アジトの場所が露見することを恐れたフェイギンは、泥棒仲間のビル・サイクス、ナンシーを利用し、オリバーを連れ戻そうと奮闘する。家族の愛を求め続けるオリバーの運命は……といったおはなし。

 祝日ということもあり、お子様の姿がたくさんみられた。彼らはこの結末を見ていったいどんな感情が芽生えるのかが非常に気になる。インタビューしてみたい。子どもたちの活躍がたくさんみられて、主に1幕はキャッチ―な曲がいくつもあるので楽しめそうだけれど、2幕全然楽しくない。休日に家族で観に行って「あー楽しかったね!せっかくだし美味しいもの食べてから帰ろう!」みたいな後味ではなく、同じ孤児系(?)ミュージカル『アニー』のテンションで観に行くと失敗する。あの終わり方じゃ暗すぎるからせめてカーテンコールで1幕の楽しいヤツを歌いなおす演出にしているのだと思うけど、私はもう全然楽しめなくなっていたというか、ドジャー……生きて……みたいな気持ちだった。1幕でスリ集団の子供たちを親しみやすいキャラクターと楽しげな曲たちで描くのに、最後「彼らはバラバラになってしまいました。どこ行ったかわかりません。」だけで突き放して終わるのはきつくない?いっそもっと淡白に描いてくれた方が……(でもそれではミュージカルとしての見せ場が消えるな……)。オリバーは運命に翻弄されながらも真っ直ぐ生きる強い子なんだが、一方でこの作品の登場人物の中では圧倒的に運が良かったわけで。極端な見方をすれば、ラッキーボーイの運の良さを見届けているだけ、みたいなお話にも思えるわけ。むしろドジャーをもっと掘り下げた方が面白い作品になりそう。最後、帽子を取りに行こうとして警察に捕まってしまうの、切ないね……。こんなに子役贅沢に使うなら、もっと子どもの物語とか関係性を深く覗きたいと思ってしまうのだよな。しかし大人キャラもさ、ここでナンシー死ぬんかいな(しかもはまめぐさん!!)、そのあとビル・サイクスも即死ぬんかいな、ってツッコミたくなったり色々飲み込みにくかった。そんなわけで、作品として好きか聞かれると、なんとも言えない。原作は読んでないが、本当にこのままふわっとした感じなのだろうか。

 臣くんはプロ(…いやみんなプロだけど)、精度の高いお芝居をするな、と毎度思う。憑依型なのか集中力の高さなのか、表情動作ひとつひとつに役としての説得力があるというか。もっと彼のお芝居を観てみたい。声変わり真っ最中で喉に負荷かかってそうなのがちょっと心配だったけれど、でも彼のドジャーを観られて本当に良かった。佑玖くんの声はまさに空まで届きそうな天使のボーイソプラノ。きれいな声とまっすぐ輝く目が素敵。他のスリ集団の子どもたちと対比して純粋無垢な雰囲気が濃く出る。ほんとうに良い声。2019のレミは本当にガブローシュの見応えがあって感動したのだけれど、その時の2人の共演がみられただけで十分価値がありました。

 

原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作詞・作曲:ライオネル・バート

フェイギン:市村正親
ナンシー:濱田めぐみ
ビル・サイクス:spi

オリバー・ツイスト:小林佑玖
アートフル・ドジャー:大矢 臣

ミスター・バンブル:コング桑田
ミセス・コー二―:浦嶋りんこ
ミスター・サワベリー/ミスター・グリムウィグ:鈴木壮麻
ミセス・サワベリー/ミセス・ベドウィン北村岳子
ミスター・ブラウンロウ:小野寺昭

ベット:植村理乃
ノア・クレイポール:斎藤准一郎
シャーロット:鈴木満梨奈
サリー婆さん:河合篤子
ローズセラー:青山郁代
ミルクメイド:髙田実那
ストロベリーセラー:飯田恵理香
ナイフグラインダ―:森山大輔
寮母:荒井小夜子
女主人:吉田玲菜
店主:石川剛
クラウン:大久保徹哉
リングマスター:照井裕隆
メイド:金子桃子
パーシー・スノッドグラス:菊地まさはる
ストロングマン:宮野怜雄奈
バレリーナ:今野晶乃
騎兵:白山博基
エキセントリックダンサー:高瀬育海

フェイギンのギャング団
チャーリー・ベイツ:日暮誠志朗
ディッパー:福田学人
ハンドウォーカー:山下光琉
スネイク:河内奏人
キング:花井 凛
キャプテン:本田伊織
スティッチム:杉本大樹
スパイダー:高田夏都
キッパー:平澤朔太朗
ニッパー:渡邉隼人

救貧院の子どもたち:
磯田虎太郎、市川裕貴、寺﨑柚空、高澤悠斗、平賀 晴、矢田陽輝、土屋飛鳥、石倉 雫、弘山真菜、黒川明美、鐘 美由希、河本雪華、木村 心

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